↓ 下の週刊誌記事から2年以上の月日を経て、上のとおり、
一気に大問題として扱われ始める ↑ |
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「時限爆弾物質」アスベスト被害の恐怖 |
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住宅の屋根や壁面サイディング、断熱材やピータイルなどに使用されているアスペスト。 このアスペストが「静かな時限爆弾」と呼ばれていることをご存じだろうか。
いったん体内に入ると除去できず、長い時間をかけて人を死に至らしめるやっかいな代物なのだ。 |
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近年、肺ガンの発症率が増えている。
国立がんセンターの予測によれば、2015年には男性11万人、女性3万7千人もの肺ガンの新患者数が見込まれるという。 すでに93年からは胃がんを抜いて男性のガンの一位になり、5年生存率も25〜30パーセントと低い。
そして、その肺ガンの要因のひとつとして「アスベスト」という物質との関係が疑われているのである。アスベストは石綿(いしわた、あるいはせきめん)のこと。
空気中に舞うほど柔らかな繊維で、鉱物の一種だ。このアスベストを微量でも吸うと、20年から50年の潜伏期間ののち、肺ガンが生じる恐れがあるという。
アメリカのガン協会の研究ではアスベストを吸っていて、さらにタバコを吸っている場合、 アスベストもタバコも吸わない人に比べて53倍も肺ガンになる確率が高いという。
また近年、急激に患者が増えている悪性中皮腫もアスベストとの因果関係が極めて明確に示されている。
このように、アスベストは吸ってから何十年もの長い潜伏期間を経て、悪性中皮腫や肺ガンを発病させ、人を長い時間かけて死に至らしめる『静かな時限爆弾』なのだ。アスベストはいったん体内に入ると、除去する方法がないというやっかいな代物だ。
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そんな恐ろしい発ガン物質のアスベストが、 実はいまだに私たちの身の回りに溢れており、建物の屋根や建材などに使われていることをご存じだろうか。たとえば駅の屋根によく使われている波形スレート、
一般住宅屋根の平形スレート(薄い瓦)、住宅やオフィスの壁面のサイディング材、断勲材、ピータイルなど。
アスベスト被害に詳しい東京都の「ひらの亀戸ひまわり診療所」の医師、名取雄司氏は、アスベストをまったく使わない建材で家を建てるのに非常に苦労したという。
「アスベストは建材などに固められて静止している状態のときはほとんど飛散しませんが、建材を切ったり、はがしたり、取り壌すときに出てきて、それが空気中に散るのです。
95年の阪神大震災の折、崩壊したビルのアスベストをきちんと除去しないまま、不用意に解体したため、大量のアスベストが飛散して大間題になりました。
また、テロ事件で崩壊したニューヨークの世界貿易センタービルもアスベストの飛散が懸念されています
これから建てる家はアスベストが使われていない建材で建てるべきだと思ったのですが、実際に建てるとなると大変でした。 建築業者との打ち合わせを綿密に行ったつもりでも、現場に行くとアスベスト入りの建材が使われていたり (次nへ) |
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チェックに一苦労しました」
欧米では、アスベストの高い発ガン性が明らかになった1970年代から90年代に すでにアスベストの使用を禁止している国が多い。しかし、日本ではアスベストを「吹き付け」して使用することは、75年に原則的に禁止としたものの、
アスベストの中の白石綿(青石綿と茶石綿は95年に禁止)に関しては、吹き付け材以外の建築材料ではいまでも大量に使用されて野放し状態になっているのだ。
アスベスト根絶ネットワークの代表である永倉冬史氏によると、アスベストの輸入量は減ってきてはいるものの、 中国などで建材やクロスに使われて製品として輸入されているケースもあり、実際のところ日本にどのくらい入ってきているか分からないという。
「一昨年は7万9干トンになったものの、いまだに世界上位の輸入国となっています。先進国でここまで使用されている国は日本だけです。 アメリカなどではアスベスト建材が使われている建物はそれだけで不動産価値が下がると言われているほど問題視されているのです。
昨年、日本も坂口厚生労働大臣がようやくアスベスト使用の全面禁止の方針を表明しましたが、時期等については現在検討中という有様で、 日本の行政は先進国の十年遅れの対応と言わざるをえません」(永倉貴)
しかし、実はこの行政指導の立ち遅れをもう見逃せないほど事態は深刻化しているのだ。 ILO(国際労働機関)は、労働災害職業病で死亡する人は世界中で年間で約200万人、
その中でアスベスト被害の発病によって死ぬ人間は約10万人はいるだろうと危険性を呼びかけている。また、日本でもショッキングな発表があった。 それは“昨年4月10日に神戸で行われた第75回日本産業衛生学会において、
早稲田大学理工学部教授(複合領域)の村山武彦氏が行った「わが国における悪性胸膜中皮腫死亡数の将来予測」という研究発表だ。 |
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氏の発表では、 2000年から2039年までの40年間でアスペスト被害による日本人の死亡者は、約10万人にものぼるだろうという指摘がなされている。
これは、過去におけるアスベスト要因で起きる代表的な病気の悪性胸膜中皮腫の死亡率から割り出された 数値であり、なんと過去10年間の死亡数の49倍に達する。
「アスベストの過去の輸入量を調べてみると、 わが国では70年代から90年代にかけて毎年20万トンから30万トンにものぼる。 これをすでに各国で示されている被害状況などのモデルケースと照らし合わせ、予測結果を出したわけです。
最近は都市再生の動きや建物の老朽化から、都心では古いビルを取り壊す動きも活発化してきています。 しかし、古い建物には必ずといっていいほどアスベストが含まれており、それらの建物の解体量が増えることで、
これから空気中にアスベストがどんどん拡散していく可能性が高まることが予測されます」(村山教授)
「たまたま吸ってしまった人」の被害
今年1月6日、東京都文京区「さしがや保育園」に通っていた3人の園児とその父母たちが、99年にこの保育園が改修工事を行った際、 「発ガン性のあるアスベストが飛散し、将来の健康被害の不安にさらされた」として、区と施工業者らを相手に慰謝料など計1200万円の支払いを求める訴訟を、
東京地裁に起こした。この保育園がゼロ歳児の定員を増やすために二階の内装工事を行った際、現場と隣の保育室をベニヤ板で仕切っただけで作業していたため、
アスベストが推定約16六万立方センチメートル飛散したというのだ。 これまでも造船所などでアスベストを使っていた作業員が「じん肺」などになり、裁判を起こした例はあったが、今後はこの園児らのように、
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アスベストをたまたま吸ってしまった人たちからの訴訟が増えると予測される。 なぜなら、アスベストは少量でも発病する可能性があるからだ。
「アスベストを使っていた工場で働き、アスベスト被害による悪性中皮腫で亡くなった人の奥さんが何十年かして同じ病気で亡くなったケースもあるのです。
悪性中皮腫の要因はほとんどがアスベストによるものです。しかし、その奥さんはアスベストを吸うような場所にはまったく出入りしていなかった。 よく調べてみると、夫が家に洗濯のため持ち帰っていた作業着についていたアスベストを吸っていたために発病を招いてしまったわけです」(前出・永倉氏)
アスベストは目に見えないほど細かく、吸い込んでも自覚症状が出にくい。 また、発病までの潜伏期間も長く、アスベストと悪性中皮腫や肺ガンとの因果関係に詳しい医師が日本には少ないこともあり、
今まではアスベストを扱った仕事をしてきた人にしか注意が向けられなかった。しかし今後、最も危険性が懸念されているのは「たまたま吸ってしまった人たち」の健康被害だ。
「アスベスト問題は『第二の薬害エイズ』とも呼ばれています。なぜなら、諸外国の動きや研究報告を見てもアスベストの危険性は明らかなのに、 アスベスト製品を製造するメーカーは企業利益を優先し、いまだ使い続けている。
そのためどれだけの被害者が出るか予測がつかない事態になっているのです」と語るのは「全国労働安全衛生センター」事務局長の古谷杉郎氏だ。
日本の建材メー力ーに問い合わせると、ほとんどが「アスベストは管理使用すれば危険ではない」と言う。 たとえば、屋根に使われている平形化粧石綿スレートは、アスベストをセメントで固めてあるので、そのままの状態ではアスベストが飛散することはない。床材や壁材もしかり。
したがって管理をきちんとすれば危険はないと言うのである。 |
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しかし、改修時に建材を撤去したり建設時に建材を切ったり貼ったりすれば、アスベストが飛散することは間違いない。 ちょっとしたリフォーム時でもアスベストが家中に飛散しているのだ。
実は、日本には建物解体時にアスベストの使用状況を調査しなくてはならないという法律が存在する。 95年4月からは、労働安全衛生法に基づく、特化則第38条の10が制定されたため、建物の解体・改修の際には、吹き付けアスベストだけでなく、
アスベスト建材なども含めてアスベスト製品が使われていないかどうかを調査し、使用状況を記録することが義務づけられた。そして、その除去作業に際しては、
外部にアスベストが飛ばないようにポリエチレンシートで囲って、負圧.集じん機を稼動させてアスベストの除去作業をしなくてはいけないことになったのである。
しかし、実際には街中で見かけるビルの解体作業で、全体をポリエチレンシートで囲うほど徹底して行っている例をほとんど見かけないのはなぜだろう。
前出の永倉氏は言う。「この法律は届け出義務がないので、実際には調査をせずに解体する業者が多い。 また、建築基準法第15条に除却届の規定がありますが、これについても統計資料になっているだけなのであまり守られていません。
アスベストの除去作業は普通の解体作業に比べてお金がかかります。 公共の建物であれば解体費用も予算に組み込むことができ、きちんとした除去作業もできるのですが、艮間の中小の建物の解体の場合、
そこまで施工主が解体費用を出せないため、アスベストが使ってある建物でも使っていないことにして、そのまま解体してしまうケースがほとんどです。 まして、民家の解体などは何の対策も取られていないでしょう。
しかし、日本では今のところビルも民家もアスベストを使っている建物が大多数です」 (次nへ) |
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実は人体に及ぽす悪影響が日本で指摘される80年代まで、 アスベストは防火カーテン、トースター、ヘアドライヤー、道路舗装、パッキン、水道管、ベビーパウダーなど、約
3000千種類もの製品に使われていた。驚いたことに補修用の車のブレーキライニングにはいまだアスベスト製品が使用されているという。 環境省の調査によれば、幹線道路に近づくほど大気中のアスベスト濃度が高くなっており、路肩に近づくほど濃度が高くなっている。
これはブレーキの摩擦によってアスベストが飛散した結果と考えられているのだ。 「EUやアメリカなどではアスベストの使用開始が日本よりも早かった。このため、まさに今、悪性中皮腫などの発病がピークを迎えています。
日本ではこれからそのピークが来ると予測されます。国の対応が遅れ、何の対策もとられないまま長期にわたってアスベストを使用してきたので、 発症する患者もまた長期にわたって増えると予測されます。
アスベストの生産国としてあげられる主な国は、ロシア、カナダ、中国、ブラジル、ジンバブエ。 カナダは自国ではほとんどアスベストを使用していないのにもかかわらず、輸出には積極的です。
97年フランスがアスベストの全面禁止に踏み切ったときもWTO(世界貿易機関)にフランスを訴え、国際貿易紛争にいたったぐらいです。その影響で、
日本をはじめWTOとの結論が出るまでアスベストの使用の是非に関しては『様子をみる』という国も少なくなかった。
しかし二〇〇一年にWTOの決断でカナダの申し立てを却下。アスベスト使用全面禁止の流れはこれを契機に世界的に加速していったのです。 |
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この一件は、WTOが組織発足以来、 貿易制隈措置を認めた初のケースでしたL(古谷氏)
しかし次のような問題も横たわっている。「表むきにはアスベストの使用をやめたというメーカーでも、製品のストックを何年分も抱えているため、 販売は依然続けられていたりする。アスベストを使用していた企業のモラルの問題も問われますね。
今後、徹底して業者に対してアスベスト検査の報告を法律で義務づけることが大切です。そしてこの検査は、客観的な第三者機関が行うようにしなくてはならないでしょうし、
ヨーロッパではアスベスト建材を使用している建物を壊す業者を、ライセンス制度にしている国もあります。ライセンスがなければアスベスト建材解体には参加できない。
日本でもこのぐらいの規制を行うべきでしょうね」(同前) すでに販売されているノンアスベストの製品は、必ず「ノンアスベスト」と建材パンフレットに謳われている。したがって何も書いていなければ、
それはアスベスト入りと思って間違いないだろう。また、アスベストを使用しているものに関して、 日本石綿協会では89年から加盟企業が生産するアスベスト建材の一枚一枚に「a」マーク表示を求めている。しかし、この協会に加盟していない建材業者もあるし、
加盟していても、包装紙に付いている「a」マークを剥がしている場合もあるので、このマークがないからといってノンアスベストであるとは限らないから要注意だ。
いま、人々の注意はシックハウスやエコ住宅に向いているが、その前にまずアスベスト建材に注意を向けること。 これが「病気にならない建物」を建てるために最も重要なことだろう。
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