台湾は別世界
 
毎日新聞 2020.10.18
この記事は、「経済」について書かれているものであること、国情の違いがあるとはいえ日本とのあまりの差に驚くとともに、まさに“誰かさん”が言った「民度」のブーメランであるかのようで、日本経済の落ち込みようと較べ明らかな差があり、笑いさえ出てきそう。

記事の10月18日に遡ることは出来なかったが、10月29日同紙による日本人の感染者数累計を基に両国の数字を較べてみたのが下表である。




人口(100万人)当りの換算で、日本で777人感染者がいるのに台湾ではただの23人、この日現在熊本県(人口:173万)の感染者数累計が781人であったが、沖縄換算だとそれが40人しか存在しないという長閑さである訳で、この海岸の密状態も納得できるというものであろう。

下稿、森永作成・ 6月 1日、上記10月18日、両データの死者数を較べると、台湾・不変、日本・約2倍という推移にも驚きを覚える。




コロナ・東京/福岡
 
まず、森永卓郎は下のように、他国に較べて感染者に対する死者数の少なさについての評価に疑問を呈す。つまり、アジア圏での比較、これはまさに下表から一目瞭然に言ってることの正しさが判る。

https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20200618/pol/00m/010/010000c
日本のコロナ対策は大失敗だったのではないか

森永卓郎・経済アナリスト、独協大学教授  2020年6月19日  

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言の全面解除を決めた5月25日の記者会見で、安倍晋三首相は次のように述べた。  
「本日、緊急事態宣言を全国において解除いたします。足元では、全国で新規の感染者は50人を下回り、一時は1万人近くおられた入院患者も2000人を切りました。先般、世界的にも極めて厳しいレベルで定めた解除基準を全国的にクリアしたと判断いたしました。諮問委員会でご了承いただき、この後の政府対策本部において決定いたします」

 「3月以降、米国では、欧米では、爆発的な感染拡大が発生しました。世界ではいまなお日々10万人を超える新規の感染者が確認され、2カ月以上にわたり、ロックダウンなど強制措置が講じられている国もあります。わが国では、緊急事態を宣言しても罰則を伴う強制的な外出規制などを実施することはできません。それでもそうした日本ならではのやり方で、わずか1カ月半で今回の流行をほぼ収束させることができました。まさに、日本モデルの力を示したと思います。全ての国民の皆さまのご協力、ここまで根気よく辛抱してくださった皆さまに、心より感謝申し上げます」  

安倍首相は、日本の新型コロナウイルス対策が的確で、大きな成功を収めたと、高らかに宣言したのだ。 同じ日、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長も、ジュネーブでの記者会見で、日本が新型コロナウイルスの感染者数や死者数の抑制に成功したと、日本のコロナ対策を評価した。  こうした状況の下で、多くの国民が、「日本人は、清潔好きで、マスクもきちんとしてきたので、感染しにくい」とか、「しっかりとした医療体制が提供できているから死亡者が少なかった」と認識している。

 しかし、日本の感染者数や死亡者数が少ない理由は、本当に「日本の新型コロナウイルスの対策が素晴らしかったから」なのだろうか。私は、むしろ逆だったのではないかと考えている。下表を見てほしい。人口100万人あたりの新型コロナによる死亡者数の国際比較だ。先進国のなかでは、日本の死亡者数は7.1人と圧倒的に少ない。主要7カ国(G7)各国の死亡者数は、日本と比べると、いずれも2桁多いのだ。これが多くの国民が抱いている日本の感染対策がうまくいっているというイメージの根拠になっている。

しかし、それはあくまでも欧米と比べた場合だ。日本は、アジアの一員だから、アジア各国の状況とも比較しなければならない。アジアといっても国や地域の数が多いので、ここではアジア太平洋経済協力会議(APEC)に参加する国・地域のうち、アジア地域に属するところだけを取り上げている。これをみると、日本だけでなくアジアは、コロナ感染による死者が軒並み少ないことが分かる。死亡者数が少ないのは、アジアの特徴なのだ。
なぜアジアの感染者数が少ないのかについては、諸説がある。例えば、アジア人特有の遺伝子上の特性があるという説、日本株のBCGワクチンが接種されていたからだという説、欧米でまん延した欧米型コロナウイルスに対する免疫力をもたらす毒性の弱いコロナウイルスに集団感染していた説などだ。まだ、どの説が正しいのか結論は得られていないが、欧米とアジアの間に新型コロナウイルスに対する防御力に関して、とてつもなく大きな差があったことは明らかだろう。
 
そのなかで、注目すべきことは、日本の人口100万人あたりの死亡者数は、アジアのなかではフィリピンに次いで多いということだ。日本の人口あたりのコロナ死亡者は、少ないどころか、トップクラスの多さなのだ。  日本のコロナ対策は、二つの点で、諸外国と明らかに異なることを行った。一つは、積極的な検査を行わなかったことだ。最近では少し改善されてきたものの、長い期間、重い症状が出ない限り、保健所が検査の必要がないと判断して、帰国者・接触者相談センターにたどり着くこともできず、当然、検査さえ受けられなかった。そもそも、帰国者・接触者相談センターという名称自体が、一般の市中感染者を想定していないものだ。

WHOが一貫して、「検査と隔離の徹底」を訴えていたにもかかわらず、日本は感染拡大初期にとられる水際作戦を延々と続けたのだ。  もう一つの違いは、都市封鎖を行わなかったことだ。コロナ感染が大都市で爆発的に拡大することは、世界共通の現象だ。だから世界は、完全封鎖でないにしても、大都市での外出禁止令を含む都市封鎖を行ってきた。しかし、日本は感染の中心地である東京を封鎖しなかった。もちろん県境を越える移動の自粛は求めたが、それはあくまでも努力義務で、東京から全国への移動に罰則はなく、それどころか、千葉、埼玉、神奈川各県などからの東京への通勤は、一貫して野放しだった。それが、感染を広げたのだし、人口あたりでは、アジアトップクラスの死亡者数をもたらした要因になったのではないか。

トゥーリトル・トゥーレートの経済対策  失敗は、医療面だけではない。経済面も同じだ。例えば、アメリカは新型コロナウイルスの対策として、300兆円を超える予算の経済対策を実行している。対して、日本は第1次と第2次を合わせた補正予算で57兆円だ。しかも、2次補正のうち10兆円は、予備費だから、人口の差を考慮しても、日本のコロナ対策費は、米国の半分以下だ。  しかも、日本は実際に国民に対策が行き渡るのが、とてつもなく遅かった。例えば、アメリカでは、大人13万円、子供5万5000円の給付金が、4月中にはほぼ国民に行き渡ったという。

日本の1人10万円の特別定額給付金は、総務省の発表では、6月10日までの給付率が38.5%と4割にも達していない。私は埼玉県所沢市に住んでいるが、市役所から申請書が郵送されてきたのが5月22日で、その日のうちに申請して、振り込まれたのは6月4日だった。ちなみにいわゆる「アベノマスク」が届いたのは、マスクバブルが崩壊し、コンビニエンスストアや100円ショップでも、普通にマスクが買えるようになった6月11日のことだった。  売り上げが半減した事業者に給付される持続化給付金については、経済産業省は6月11日までに、およそ199万件の申請があり、このうち75%ほどにあたる149万件に給付したことを明らかにしている。ただ、申請が開始された5月1日から11日までに受け付けた77万件のうち6%にあたる5万件が、未給付になっているという。  

こうした「小さくて、遅い」経済対策によって何が起きたのか。本来であれば、国内総生産(GDP)の実績でみるのが望ましいのだが、4〜6月期のGDP統計が発表されるのはまだ先になるので、今月、世界銀行が発表した「世界経済見通し」の2020年の経済成長率見通しで比較してみよう。  それによると、日本の今年の経済成長率はマイナス6.1%と、米国とまったく一緒だった。米国の人口あたりのコロナによる死亡者は、日本の44倍だ。米国のほうが、ずっとコロナの被害が大きかったにもかかわらず、日本は米国なみの経済減速となったのだ。ちなみに、先進国全体の経済成長率は、マイナス7.0%となっている。  

一方のアジアはどうか。世界銀行は、全ての国の経済成長率見通しを公表していないが、公表されているアジアの国の成長率をみると、タイ:マイナス5.0%、マレーシア:マイナス3.1%と被害が大きいが、それでも日本よりもましだ。日本よりも死亡者数が多かったフィリピンはマイナス1.9%だ。そして、インドネシア:0.0%、中国:1.0%、ベトナム:2.8%は、プラス成長を維持する見通しだ。  結局、日本は世界の常識とかけ離れたコロナ対策によって人口あたりではアジアトップクラスの死亡者を出すとともに、小さくて、遅くて、非効率な経済対策によって、欧米並みの経済失速に陥ったというのが真相なのではないか。  

小池百合子東京都知事は、三つの指標が満たされたとして、6月11日に東京アラートを解除することを決め、同時に東京ロードマップも、翌12日からステップ3に移行すると発表した。これによって、カラオケ、パチンコ店、ネットカフェ、遊園地、接待を伴わないバーやスナックなど、幅広い業種の休業要請が解除された。また、居酒屋など、飲食店の営業も午前0時まで可能となった。さらに、6月19日からは、接待をともなう飲食店やライブハウスの休業要請が解除されるほか、飲食店の営業時間制限も解除されることが予定されており、休業要請は事実上の全面解除になる。  

しかし、東京の新規感染者数は6月11日22人、12日は25人、13日は24人。全国の新規感染者が収束の気配をみせるなかで、東京だけが高水準を続けている。これで自粛解除の影響が出てくれば、東京で大きな第2波が発生する可能性は否定できないだろう。その時は、今回のコロナ対策の失敗を教訓にして、新しい対策を立てるべきだ。  私は、最も効率的かつ効果的な第2波対策は、「東京封鎖」だと考えている。


まさに前稿で森永が最後に危惧していたとおり、6月20日以降、近日(7月3日)来東京の感染者数は治まりを見せるどころか、完全に発生当初の勢いを取り戻し、アラート解除を嘲笑っている体である。
知事が自分の選挙にかまけてアラートの発令・解除が真逆という体たらくで、“よくもまあ”と呆れる都民の人選のありようである。 おかげで、東京は下記の状況に陥った。

https://jisin.jp/domestic/1873273/
止まらぬ感染者増に専門家が苦言「東京のコロナ対策は失敗」
最終更新日:2020/07/02 11:00

緊急事態宣言解除後の対応に疑問が続々と 「世界中で現在、第2波が広がっているわけです。日本はまだ、この程度で済んでいますが、今後、気持ちが緩むことでさらに広がって大変なことになると思います」 そう語るのは、日本感染症学会の舘田一博理事長だ。

東京では6月26日に54人、27日にも57人と増え続け緊急事態宣言解除後、最多の感染者が発生。24日の会見では、小池都知事が従来の“夜の街”での感染に加え「職場内クラスターがここのところ問題になっている」と警戒感を示した。 「26日は、東京をあわせ全国で新たに105人の感染者が出ました。1日の感染者が100人を超えるのは5月9日以来48日ぶり。予断を許さない状況です」(全国紙記者) そんなさなか、西村経済再生大臣は24日、コロナ対策の専門家会議を「廃止する」と発表。野党は「政府がコロナのマネジメントをできていなかったことが明確だ」と批判し、与党からも「事前説明がない」などと疑問が呈された。

「こうした報道に国民が不安を抱く現状にもかかわらず、政府は観光需要を喚起する『Go Toキャンペーン』を早ければ8月から開始すると発表。来年の東京五輪を是が非でも開催したいという政府の思惑が明らかに感じられます」(医療ジャーナリスト) 国立病院機構三重病院の谷口清州臨床研究部長は言う。 「感染症の専門家として言わせてもらうと、東京でどれだけ感染者が出たといっても、疑いのある症例から、何人検査して何人が陽性なのか、分母がないと実態がわかりません。今は検査のキャパシティも十分あると思いますし、診断キットも使えるので早期探知を進めないといけないと思います。そうしないと、また緊急事態宣言を出すことになり、いろいろな企業や店が倒れてしまいます。このまま今と同じことを続けていてはダメだと思います」

前出の舘田理事長も言う。 「前回の緊急事態宣言のときに8割減と言っていたのは『人流×濃厚接触を8割減にする』こと。人流とは人の動きで、濃厚接触とは、マスクなしで1m以内で15分以上会話すること。そういう環境が感染を広げるわけです。移動そのものが悪いわけではないし、リスクを理解して注意がきちんとできていればいいんです。メリハリをつけた安全対策をとれるよう生活を変えなければいけないと思います」 目下、感染増加が飛びぬけている東京に焦点を絞ると、感染拡大防止策の“タイミングの悪さ”を挙げるのは、西武学園医学技術専門学校・東京校の中原英臣校長だ。 「結論から言うと、数字を見てわかるように、東京のコロナ対策は失敗しているわけですよ。東京、そして都民にとって不幸なことが2つあって、1つ目はこの年に五輪があったこと。五輪をやることを優先したあまり、対策が遅れた。2つ目は、この時期に東京都知事選挙があること。 緊急事態宣言でみんなマスクして収まりかけたと思ったら、今度は選挙だということで、小池都知事は東京アラートを引っ込めて、自粛を全解除してしまった。とにかく、選挙が終わったら、もう一度しっかりコロナ対策をやってほしいですね。それをやらないと、すぐ首都圏全体に影響が出る可能性があります」

そして、政府の対応の遅さに憤るのは、NPO法人・医療ガバナンス研究所の上昌広理事長だ。 「検査数だけでなく、ウイルスのタイプの確認も含めて、日本は対応が遅いんです。検査を推し進めていかないと。今後は日本でも強毒性に変異しているウイルスが蔓延してしまう危険性があります」 首都の感染拡大を機に、強毒化した新型コロナウイルスが、日本中に蔓延するリスクさえあるというのだ――。これ以上、状況を悪化させないために政府はどんな対策をとるべきなのか。 現在、PCRセンターにも勤務する感染症専門医で、のぞみクリニックの筋野恵介院長はこう語る。 「私がいるPCRセンターは1日2時間だけ開いていて、20人ぐらい検査に来ています。来るのは無症状の人が多く、そういう人は無自覚に出歩いているという印象です。結果が出るまで待機すべきなのに、実際には『これから出かける』なんて人も多い。 店・会社を営業するため、陽性者が出ても詳細を伏せ営業を続けることがある。本来は、強制的に、一斉に全員を検査すべきだったと思います。

実は今、PCR検査にかなり余裕があるので、希望すれば誰でも検査できます」 少し前までは、検査してもらえずに、病院をたらい回しにされたといった悲鳴が起きていたが、今は病院で「微熱があるからPCR検査をしてほしい」などと言えば、すぐに検査してもらえるという。 「1回どこかで感染者が出たら、その周辺を国が強制的にしっかり検査できるようにして、感染が拡大しないようにする。今ぐらいの感染者数なら可能ですし、すべきです。これが経済を止めない中でできる、いちばんいい対策だと思います」 さらに全国各所での水際対策も、もっと徹底すべきだと指摘する。 「出入国制限に関してはタイ、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランドの4カ国を6月中に緩和する方向で調整を始めましたね。これも怖いです。北京や香港は緩和後に感染が急拡大しました。 8月には観光もOKとなると、無症状の人たちから感染が全国に拡大していく可能性も。夏休みはやはり不安です。各自治体が権限を持って対策できるようにすべきです。観光地の入口で水際対策をしてほしい。たとえば、関西国際空港を利用するなら、1週間以内のPCR検査陰性の証明書が必要など、対策をすれば全国への感染拡大は防げるのではないでしょうか」 生活していくには日々、働かざるをえない。飲食店、観光業、サービス業もみんな必死だ。緊急事態宣言が再び出されることになれば、経済は深刻な状況に陥る。われわれの自衛に責任転嫁することなく、政府の早急な感染対策が求められる――。

「女性自身」2020年7月14日号 掲載


ところで、かくいう筆者地元福岡も人口比にすれば都道府県中不名誉な感染者数であり、他地域同様 規制解除後の“夜の街”関連に感染者の増加を見、自粛が望まれるところ大の状況である。
(下表は4月1日から7月3日までの福岡県・市感染者数である)

前稿「東京の対策失敗」2日前の記事であるが、そもそも初期段階から日本の対策が失敗だったという論である。また、前々稿・森永卓郎同様、アジアにおいて日本の人口比死亡率の“高さ”も注視している。

https://mainichi.jp/articles/20200630/dde/012/040/017000c
特集ワイド 児玉龍彦東大名誉教授 日本の対策「失敗」 第2波へ検査拡充せよ コロナの実態把握訴え

毎日新聞2020年6月30日 東京夕刊  

安倍晋三首相は自ら指揮を執る新型コロナウイルス対策を「日本モデルの力」と自負した。東京大先端科学技術研究センターの名誉教授で分子生物学者の児玉龍彦さん(67)は、首相の自己評価を否定し、対策は「失敗だった」と指弾する。それでは、第2波にどう備えればいいか。  

児玉さんが真っ先に挙げたのは、検査態勢の見直しだった。
「東アジアの中でコロナ対策に失敗したのは日本でした」。児玉さんがこう断言するのは、医療崩壊を防ぐという名目で政府主導によりPCR検査(遺伝子検査)の数を制限してきたからだ。「大量の検査をしないというのは世界に類を見ない暴挙です。感染症を専門としている人間にとって、この発想はあり得ない。感染症対策のイロハのイは、誰が感染しているかをきちんとつかむことです」 そのためには、新型コロナの特徴を把握しなければならない。「このウイルスは、症状が出てから感染が見つかるというだけでなく、無症状や軽症の人も多い。普段の暮らしの中で無自覚なまま感染を広げてしまうから、第1波でウイルスがどう広がり、どう引いていったのか分からない」。流行が小康状態にあるうちに、児玉さんは感染の解析を一気に進めることが、第2波に備える重要なカギになると考える。

2011年に起きた東日本大震災。児玉さんは東京電力福島第1原発事故の直後から、放射性物質による内部被ばくについて積極的に発言を重ねた。国に対して「測定と除染」に全力を尽くし、命を守るよう訴えた。目に見えないものを解明しようとする児玉さんの姿勢はコロナ危機にあっても不変。3月には、あるプロジェクトを始めた。大規模な抗体検査を通じ、症状のない人を含めて感染者を明らかにしようという取り組みで、「検査と感染制御」を実践したものだった。 新型コロナウイルスの抗体保有検査会場で行われた採血のデモンストレーション。看護師は感染対策としてフェースガードなどを装着していた。全自動で抗体量を測定できる検査機を導入したことで、1台で1日500人の検査が可能となった。東京都内の医療機関で採取した1000人分の血液を調査した結果、0.7%が陽性だったことが分かった。抗体とは、ウイルスが体内に侵入すると、それを排除するために作られるたんぱく質のこと。抗体を調べる精密な検査に加え、PCR検査や抗原検査を組み合わせること により、感染の実態を把握すべきだ---児玉さんはこう訴える。

日本は新型コロナ感染による致死率が欧州各国と比べて低い。だが、児玉さんは楽観していない。日本は人口100万人あたりの死者が7人で、東アジアや南アジアの一部の国々と比較すると、フィリピンに次いで多いというのだ。「台湾や韓国などの対策は、感染者の全容を明らかにしようとするもので、症状が出ていない人も把握して、社会の安全安心を守るというものでした」。一方、日本では無症状者を把握することがなおざりにされたという。児玉さんがこう解説する。「無症状の人が多い一方で、病院や高齢者施設に入り込むと、非常に致死性の高いウイルスとして牙をむく。新型コロナの持つ二面性が十分に理解されていないから、政府の専門家会議メンバーの有識者があのような発言をするのです」 有識者の発言とは「コロナはそこまでのものではない」「大量に検査すると医療が崩壊する」といった内容で、児玉さんには到底納得できない見解だった。

「実際、保健所などではPCR検査を希望する人を断るケースが相次いだのです。従来型の感染症対策では解決できません」。児玉さんの言う「従来型」とは20世紀における防疫の基本、「隔離と避難」を意味する。「約100年前のスペイン風邪の流行当時は『隔離と避難』という方法しかなく、ウイルスをリアルタイムで捉えることなどできなかった」。21世紀になると、遺伝子工学を用いたさまざまな検査法が可能となり、情報科学を駆使して感染者を追跡する技術も発達した。

ではなぜ、日本は「時代遅れ」とも映る20世紀型の対策に終始したのか。児玉さんはその理由として、感染初期に大学や研究機関をいち早く閉鎖した点を挙げる。 「新型コロナのような新しい現象が起こった時、直ちに分析して対策を提言するのが科学者のあるべき姿です。しかし、今回は文部科学省の指導の下、その人たちが真っ先に店をたたみ、家に帰ってしまった」。大学や研究機関の閉鎖による影響の一つが、冒頭に挙げた検査の抑制策である。「大学の研究室や理化学研究所などは数万単位のPCR検査を実施できる機器を持っているのに、この間ずっと活用されずにくすぶっていたわけです」

健康診断の活用、提案  
政府の緊急事態宣言が全面的に解除されると、街はすぐさま人通りが増え、元の生活を取り戻しつつある。だが児玉さんは、全国一律で取り組んだ「ステイホーム」についても異議を唱える。「一律の自粛要請は国民を守ることを考え抜いた取り組みとは言えません。社会のエネルギーがそがれるだけでなく、感染に対応するエネルギーも失われるからです。それに、仕事に出なければいけない人がたくさんいるのですから」。スーパーやコンビニは変わらず食料や生活必需品を販売し、家庭ごみの収集は通常通り、電気などのライフラインも維持されている。

「感染していない人同士が距離をとっても、防御にはなりません」。だからこそ、感染の有無を検査する対策が必須となる。あらかじめ感染すると重症化しやすい人を分け、医療につなげて救命率を上げることが肝要だという。 児玉さんを中心とした先のプロジェクトによる精密な抗体検査が、重症化のリスクを見極める判定に有効なことも分かってきた。感染初期にできる「IgM」、遅れてできる「IgG」の二つの抗体を分けて測定でき、
IgMが急激に上昇していると重症化する可能性が高いのだという。コロナ対策は現在、経済を回しながら感染をどう抑止するかという局面にある。社会・経済活動が動き出した今、児玉さんが提案するのは、企業が定期的に実施する健康診断の活用だ。

「一般的な採血で残った血清を使えば、抗体検査が十分できる。その結果、例えば会社の中で窓口業務の人は感染率が高く、次に営業の人、最も低いのは在宅勤務の人といった傾向が分かり、対策に結びつけることができるのです」 政府も検査の拡充を宣言した。安倍首相は18日の記者会見で、都道府県をまたいだ移動の制限を解くにあたり、「国内の検査態勢を一層強化していく」と述べた。児玉さんは言う。「精密な抗体検査は病院や高齢者施設に加えて、会社や学校での対策にも役立つ。そのことが評価され、保険適用されれば日本中に広まると考えています」  
第1波を経験し、私たちは教訓を得た。第2波への備えはもう「手探り」では済まされない。【鈴木梢】

児玉龍彦(こだま・たつひこ)さん  1953年、東京都生まれ。 77年、東京大医学部卒。東大先端科学技術研究センター名誉教授。専門は分子生物学、内科学。 現在、同センターでがん・代謝プロジェクトのリーダーを務める。 著書に「内部被曝の真実」など。




− 荒牧 千e Aramaki Kazuhide −
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