安い!うまい!を信念に
「気軽に本物のうどんを」と移転、値下げした「博多さぬきうどん」の店主 秋山 実さん(56)
いつも天気が気になる。「温度や湿度のわずかな差で麺の仕上がりが違う。小麦粉と水、塩の配合を微妙に変えるんです」
あきやま・みのる
久留米市出身。那珂川町在住。家族は妻と2男。長男(25)は後を継ごうと店で修行中。
うどんはざる・釜あげ・肉400円、他人450円を除いて全品300円。
年中無休で営業時間は平日午前10時半〜午後8時、
土日祝日午前11時〜午後7時。 TEL 713・7972 |
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年中Tシャツ1枚で、37年間、ひたすら手打ちうどんを作ってきた。昨年10月、中央区天神のオフィス街の真ん中にあった店を閉め、同区渡辺通に移転。同時に値段をそれまでの500円から300円に下げた。「おいしくて安く手軽に食べられる。うどん屋の原点に戻ろうと考えて」。覚悟の要る決断だった。
「博多さぬきうどん」。 あっさりしてこくのあるだしに軟らかめのめんが特徴の博多うどんと、めんの歯ごたえやのど越しを味わうさぬきうどん。対極にある二つのうどんの長所を融合させようという意気込みが屋号に込められている。
うどん屋になるつもりはなかった。自衛隊の病院に勤務していたとき、父親が、飲食店を開くなら資金を出すという話になった。さぬきうどんで有名な高松市で会社勤めをしていた兄に勧められ、同市のうどん屋に半年間住み込んでめん作りを一から学んだ。
毎日2時半に起床というつらい修行を終え、1963年、同区大名に店を開いた。
ところが、客の反応は予想外のものだった。「うどんが煮えとらんばい、と。さぬきうどんの太くてコシの強いめんが口に合わなかったんです」。めんをやや細くし、甘みを出すなど試行錯誤を重ねた。だし作りにも励んだ。さぬきうどんは生じょうゆをかけるだけ、といった食べ方が普通だが、福岡ではだしが決め手。
全国を回って味を指導する職人に教えを請い、羅臼(らうす)昆布やカツオぶしなど7種類の材料を使っただしを生み出した。 3〜4年かかって納得の行くうどんが出来るようになり、同区赤坂を経て75年、天神に出店。地の利もあって順調に売上を伸ばした。しかし、一等地にあるため度々家賃が上がった。「ただでさえラーメンに押され気味のうどん。値上げしたら客は離れてしまう」。
思い悩んだ末、家賃の安い渡辺通への移転を決めた。「100円ショップがはやっている」という客の言葉をヒントに値下げに踏み切った。「機械を使わない手打ちで、ゴボウ天も芋天も素材を自分で仕入れて揚げるから何とか採算は合う。決して質は落とさない」。が、人通りは少ない。やって行けるのかと不安が胸をよぎる。
杞憂(きゆう)だった。次第に口コミやインターネットで「うまい店がある」と広まり、わざわざ遠方から訪れる人が増え始めた。常連客も戻ってきた。
「出張の度に寄って下さった大阪の大企業の社長さんが『探したよ』と顔を出されたときは感激しました」。
「お客様に『たったの300円でいいんですか』と言われた時、価格が認められたと本当にうれしく、頑張って行こうという気になります」。今、決断は正しかったと思っている。 |