地域で暮らし続ける〜日本とデンマークの現場から 国民の「幸福度」って
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銭本隆行・日本医療大学認知症研究所研究員
2021年3月16日 |
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幸せを実感できるから自然に笑顔が出る=筆者撮影
新型コロナウイルスの感染防止対策で緊急事態宣言が続いていますね。これまでは友人と外食したり、旅行を楽しんだりしていた生活が、今は「おこもり生活」になっているのでは。そんな時、改めて「幸せってなんだろう」と考えた方もいるのではないでしょうか。
「仕事帰りに一杯」がほぼない
デンマークでも同様で、感染は思うように収まらず、外出や集会などの制限が続いています。しかし、デンマーク人はもともと、日本人のように頻繁に外食はせず、「アフターファイブの飲み会」というものもほぼないため、「おこもり生活」は、そこまで苦にはならないようです。
「5人以上の集会は禁じられ、多くのスーパーも閉鎖され、コンサートなどの文化的行事もないけれど、妻と一緒にいられるし、自分の時間を持てるから大丈夫」
デンマーク人の知人は少し前、こうメールで連絡をくれていました。家族との時間を大切にするデンマークならではといえます。さらに、家庭を顧みずに仕事に打ち込むことに幸せを見いだしてきた日本人(だんだん変わってきていますが)と異なり、デンマーク人は自分の時間を持つ、つまり
孤独であることを楽しむ国民性でもあります。それは、こうした「おこもり生活」の中でも、幸せを感じ続けるために重要な要素でしょう。
幸福度が高いデンマーク
こうした背景があってか、デンマークは、幸福度を調べる調査で常に上位にランクされる国です。たとえば、国連が発表 している「世界幸福度報告書(World
Happiness Report)」の2020年版ではデンマークは2位でした。ちなみに1位は3年連続でフィンランドでした。日本は62位と、先進国の中でも下位に甘んじています。寂しいですね……。
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デンマークでは十分な社会保障によって誰もが安心して生きることができる=筆者撮影
報告書は世界156の国・地域を対象に、自分が幸福と感じる度合いを質問し、調査結果と、1人当たり国内総生産(GDP)、健康寿命、社会保障制度などの社会的支援、個人の自由、国への信頼度などのさまざまな指標を総合して評価したものです。
デンマークでは自分自身が幸せと感じ、産業も国際的に強く、社会保障の仕組みが充実しているからこそ2位にランクされるのでしょう。
それに対し、日本では、格差が広がる社会やいざというときに自分を守ってくれない不十分な社会保障、自己肯定感が小さい国民性が変わらなければ、日本は決して上位にはランクされないのではないでしょうか。
1位のデンマーク 90位の日本
また、少し古いですが、06年にイギリスのレスター大学が行った調査では、医療、生活水準、基礎教育、経済的要因などの項目をもとに、178カ国を対象に幸福度を測ったところ、デンマークは1位に輝きました。理由は、医療費無料や世界最高水準の国民1人当たりGDP、高い教育レベルなどでした。ちなみに
その調査でも日本は、90位と下位に甘んじています。
08年のアメリカの調査機関「ワールド・バリュー・サーベイ」が行った調査でもデンマークは幸福度1位でした。生き方の選択の自由、男女平等の推進、マイノリティーに対する寛容さなどのどちらかといえば社会文化的な側面に焦点をあてたものでしたが、いずれの項目でもデンマークは1位でした。この
調査では日本は43位と少し上がりましたが、相変わらず低迷しています。
とはいえ、デンマーク人に「なんであなたたちは幸せなの」と尋ねても、「なんでだろう」と誰からも明確な答えは得られませんでした。ただ、「いざという時も自由に安心して生きられるからね」と答えた知人がいました。「自由」や「安心して生きられる」はまさに幸せのキーワードなのかもしれません。
また、国連の世界幸福度報告書でも触れていましたが、デンマークが世界に誇るもうひとつの指標は、世界一汚職が少なく、国民の国への信頼度が高いことです。国際NGOの「トランスペアレンシー・インターナショナル」は、公務員の汚職について世界の国々と地域を対象に調査する汚職度調査を
発表していますが、デンマークは常に上位であり、20年は1位でした。
一方、日本では汚職を伝えるニュースが頻繁に流れていますが、デンマークで生活していると、汚職に関する報道はめったにありません。しかも、デンマークでは国政選挙の投票率は常に80%台後半。国民の政治家に対する監視の目もとても厳しいです。その結果、ガラス張りのオープンな
政治となっているといえるでしょう。
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筆者が勤務していた学校では選挙期間中に立候補者を呼んで話を聞いていた=デンマークで、筆者撮影
「汚職政治家は次の選挙で落とす」
「もし政治家が汚職にでも絡めば次回の選挙では確実に落とす」 デンマーク人の知人はこう断言します。
ガラス張りのオープンな政治が確立されている結果、国民の意向は無視できないものとなり、社会保障などの仕組みは国民が納得するものにせざるを得ません。さらにその結果として、十分な社会保障が得られる国民は国への信頼度を高めます。デンマーク在住中に「真の民主主義とはこうやって
機能させるんだ」とデンマーク人に教えられたような気がします。それに対し、日本は……と思わざるを得ません。
ちなみに、「オープン」なのは国民の生活習慣にも見られます。デンマークの多くの家庭では、外と中をさえぎる窓のカーテンが常に開いたままです。くもりガラスはめったになく、外から屋内をうかがおうとすれば丸見え。まるで、「どうぞ見てください」と言わんばかりです。見られても
デンマーク人は気にしない。ささいなことかもしれませんが、デンマーク人のオープンな国民性を表すものとして興味深くはないでしょうか。
https://mainichi.jp/premier/health/articles/20210309/med/00m/100/006000c
上段記事を読み、決定的に日本が下位に甘んじる点は “もし政治家が汚職にでも絡めば次回の選挙では確実に落とす” の欠落ということが良くわかる。
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