これを杜是として掲げている会社がある。仕出し弁当業界の最大手「玉子屋」である。「人間臭くて深みのある人間かどうか、 この企業理念の反応で見分けるんですよ」と語るのは、同社代表の菅原勇継氏である。
現在、一日三千食を売れば大手と言われる業界の中で、同杜は平均四万五千食の弁当を出荷。午前中は電話八十台とファックス四十台に、ひっきりなしに注文が入る。
たった四百三十円という価格にもかかわらず、口コミで弁当の美味しさや充実度が広まり、年商は五十億円を超えるまでになっているのだ。
「朝礼なんかで皆を集めて、今日も一日がんばりましょう、なんていうのは嫌い。ノルマも嫌。仕事も遊びと思わなくちゃつまらないでしょう」開口一番、彼はこう言った。
勉強には答えがあるが、遊びには「これだ」という答えはない。だからこそ頭を使って、楽しい遊びを生み出すことが必要になってくる。
菅原氏がこうした考えを持つようになったのは、終戦直後、満州から着のみ着のままで逃げてきた経験があるからだ。 「命からがら逃げてきて、どうせ拾った命だから、楽しまなくちゃと考えるようになったんです」
しかし、経営は決して順風 満帆ではなかった。十五年以上前、同社は一度食中毒事件を起こし、一週間の営業停止処分を受けている。
当時は廃業も考えたという菅原氏だが、周囲の励ましや「玉子屋」の根強いファンに支えられた。彼はこのときの苦い経験から最新の機械を導入し、毎日自社の弁当を食べて、材料にも吟味を重ねている。 |
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同社で最も特徴的なのは、アルバイトスタッフの存在である。配達は主にこのアルバイトが請け負っている。 「家からも学校からもドロップアウトしたようなヤツばかり」と言うが、そうしたタイプの方が、一度やり甲斐を見出すと途端に目が輝いてくるのだ。
実際、彼らは配達が終わった後も事務所に集まり、業務内容についてあれこれ意見交換を自主的に行なっている。また、配達は地域別に十二班に分かれているが、それぞれの班長は班員によって選ば
れている。
実際の業務は彼らに任せるため「やらされている」という感覚がない。「仕事はほとんどがポトムアツプ。トップダウンは挨拶ぐらい(笑)。社長が社員に『おはようございます』って率先して頭を下げている」
さらに配達システムも効率的だ。まずは遠くのエリアヘ多めに弁当を持って配達に行き、近距離のエリアは後に回す。 その間、余った弁当は工場まで持ち帰らずにスタッフが連絡を取り合い、現地でそれぞれ調整し合うのだ。
これによって弁当のロス率をほとんどなくしている。
ただし、これ以上規模は拡大せず、弁当の中身をより充実させていくことを考えていると菅原氏は言う。 「大阪なら大阪、北海道なら北海道と、地域に合った仕出し弁当屋が出てくればそれでいいと思っているんです」規模の拡大が最終目標になったら、ピリピリして遊びの
部分がなくなってしまう。
彼にとっての仕事は、あくまでも遊びの延長。しかし、そうして知恵を使ってきたからこそ、トップシェアに躍り出ることができたのである。 |