ええ一満場割れんばかりの拍手ありがとうございます。

もう本当に出てきたとたんにこのお客 さんの拍手で迎えられるとぞくぞくっとしてまいりますけれどもしかしなんですねええ、ええ この新宿というお遊び場所の多いところをわざわざ寄席まで足を運んで(半笑い)、落語を聴こうなんてお客さんはもうねえ真の落語ファンではないかなんて大変ですよ楽屋でみんな意見を戦わしてもう、ええ胸倉つかみ合ってああでもないこうでもない、どっかほかに行くとこないのかしら(そ)んなこと言ってる奴もいました。

ええけしからん話でとにかくもうお客さんが来てくれないと我々のほうは弱い商売でねこれが、ええ、お客さん来ないからったって一軒一軒 お宅伺うような(そ)んな強気な商売じゃございませんのでね、ええまだまだ夜の部始まったば かりでねこのあと大勢出てまいりまからどうか皆さんもなんですよ、あのー途中で挫折して帰 ることのないようにね、みんな気を強く持ってねもう一致団結して最後まで頑張っていただき たいなんてね(半笑い)、

そんなこと言ってたってどうかすると途中で帰っちゃう薄情な方が 時たまいたりなんかしてねえ、ええ我々のほうだって負けちゃいません毎目前座さんがね 楽屋で統計とってましてね、その統計によると大体途中で帰ったお客さんのね92%の方がこの 末廣を出たとたんに何か不慮の事故でお亡くなりになったりなんかいたしておりますから、

ええ、ひとつ皆さん命が惜しかったら最後まで頑張っていただきたいとこう思うようなわけでし かしまあ考えてみるってえと噺家なんてのはこういうところに出てまいりましてねくだらねえことをぱあぱあぱあぱあもう、喋るだけ喋って時間になるといなくなっちゃうってんでねえお客さんのほうから見るてえと実にのんきな商売だとこう思うかもしれませんがねえ、これでなかなかこっちい回ってみるとこれが難しい商売でね、

ええ、とーにかくねえ毎目毎目お客さんの相を見ながら喋るんですよ えーと今日はどういうお客さんが多いのかしら、いろいろここへ出てきて考えるわけでね、えぇ やっぱりなるべくこのお客さんに合つた話をしようなんてんでね、

うん例えばま あ小さいお子さんが多いなと思えばお子さん向けにね漫画のどらえもんだとかサザエさんの話 をしたりあるいは今日ちょっと中小企業の旦那がたが多いなと思えば、あマルクスの資本論を喋るとかね、ええあるいはなんだい今日は年寄りぱっかりだなと思えぱどこそこの火葬場が安いんですよとかね(半笑い)ええ、やっぱりこのお客さんに合わせなくちゃいけませんのでね、

えーそ(う)ゆ(う)わけで今日はひとつ馬鹿の話を・・・

(古今亭志ん五、最後の“馬鹿の話を”の前までは どんな噺でもこのまくらを振る)